カラマツは本当にダメずらは本当?      武井富喜雄先生講演要旨
日本が木材需要の大部分を輸入に頼っている状況と、輸出国それぞれが抱えている木材生産に関わる問題を紹介し、木材自給の必然性を充分に感じたうえで、カラマツのこれからを考えさせてくれるという構成。
資料スライドを豊富に利用した武井先生のお話しは、どれも大変わかりやすく、カラマツにボンヤリと関わっている身にとっては勇気付けられるどころか、叱咤される思いのアッという間の二時間半でした。さらに、今回は嬉しいことにカラマツを積極的に利用している公務店の方や、村内の山林所有者からも活発に意見が出され、カラマツ産地の私たちが何をすべきかを考える上で、ひとつの重要な転機になったように感じられました。その夜、勉強会有志で催された武井先生をかこむ会でも、長年からまつの利用方法を研究してきた先生のお話をたっぷりとうかがうことができました。お忙しい中講演してくださった長野県林業総合センターの武井富喜雄先生、本当にありがとうございました。

「カラマツはダメずら、は本当?」という講演の題名が、なぜか役場にお願いした放送では「カラマツはダメずら」になってしまっていました。この放送を聞いて、「これは何かの間違いだろう」あるいは「何か変だな」と感じた方と、「やっぱりそうずら」と思った方の、どちらが多かったのでしょうか。興味のあるところです。

 「カラマツはダメずら」は本当? 武井富喜雄先生講演要旨
                                   
関初恵さん(梓山)がまとめてくれました。

森の勉強会では先般、長年カラマツの研究に携わり「カラマツの材質向上のための施業技術に関する研究」(いままで発表された論文四十四本程がほとんどカラマツに関するものである)で農学博士になられた前長野県林業総合センター所長、現長野県林業総合センター学習展示館館長武井富喜雄先生 にカラマツについての講演をしていただきました。

「カラマツはダメずら」は本当?
1. カラマツを巡る海外林業のいまは

A. 主な木材産地の諸問題
・ 南洋材
日本人ほど最高級品を欲しがる人種はなく、まず衣における毛織物(羊毛)、食のコーヒー、住の木材、すべて一級品は日本が持ってきてしまう。たとえば米マツ1立米、12万円もする一級品は、日本と、ヨーロッパのサウナ風呂用、二級品韓国、三級品は中近東、四級品がアメリカへ行く。一級品だったフィリピンのラワンは終わり、ニ級品のインドネシアも切りつくし、現在輸入しているのは三級品のマレーシア(ボルネオ)からのものだが、現地の人々が森林を付加価値の高い畑にかえてオイルパームなどを作る結果、森林資源は減少の一途である。山林火災、伐採による残存木の被害が四割にもなるなど、伐採跡地の劣化が危惧されている。
現在、ボルネオ地方は丸太輸出を禁止し、加工品(合板など)を輸出している。
ベトナム、フィリピンの森林は70%破壊され、タイ、インド、カンボジア、ビルマ、中南米、ブラジルなど熱帯地域では農民による破壊が大きい。世界40億haの森林のうち熱帯林は19億haといわれるが、毎年、四国の面積位が減少している。

・ 北米(カナダ、アメリカ)
大面積で大径木(オールドグロス)を切ることでコストを下げてきたが、オールグロスが無くなりつつある。森林が大面積切られることで(かつては250〜300町歩も切られていたが、今は40町歩)川の水温が上昇し、鮭があがって来ない。そこで川岸から60mまでは森林伐採を止めているが、自然保護団体も学者、一般住民もこれで川の環境が元にもどるとは思っていない。
野生動物(マダラフクロウ等)の極端な減少、伐採跡地の人工林化の遅れ(残存木による天然更新)、森林の害虫被害(オレゴン、ワシントン州の53%の森林)。大きな木を切ることによって、また、大型機械を使って大面積を切ることによって、労働生産性を上げている(日本人:一人一日2立米、カナダ:13.2立米、スェーデン7.1立米)。
カナダの場合、木材産業さえ育ってくれれば良いということで、他国と競争できる価格はいくらか?運送は?伐採は?と遡るから立木価格は限りなくゼロに近づく。アメリカはカナダからの木材に20%の関税をかけていて、割当量もある。カナダでも、巨大工場が11もつぶれ、2000人もの木材業者が失業している。

・ 北洋(シベリア)地域
コルホーズでの伐採だから組織維持のため売上減少を大面積伐採でおぎなうので、奥地に進まざるをえない。バイカル湖から北極海に流れるレナ河の水量が減少、山火事、野生生物の減少、また、伐採跡地の低質林化(シラカバ)、更にソ連邦の崩壊で一般人の乱伐も加わり、良質材は減少し、跡地が更新不可能(凍土の湖沼化)な地帯も多く出現している。

B. 短伐期林業の台頭

・ アメリカ南部
中国からの安い綿花の輸入で太刀打ちできなくなったかつての綿花畑にサザンパイン(30年〜40年伐期)を5千万haも植えて、間伐材はパルプに、残りは集成材にして輸出している。

・ チリ、ニュージーランド
ラジアータパインを植え、伐期はなんと20年から25年で胸高直径25〜30センチになる。ニュージーランドでもラジアータパインの植林分が125万haにも達している。

・ インドネシア
カリマンタン極長短伐期のユーカリは伐期15年でパルプ合板の芯材に使われる。
しかし短伐期林業はくり返すことで早期の林地荒廃をまねく恐れがあると林業関係者からは疑問視されている。

C. 林業先進国の苦悩
・フィンランドアメリカ南部
ほとんどが民有林で原材を安く買わなければならないので、森林所有者が売らなくなり過熟林がふえ、病害虫が発生し伐採、植林、手入れという有効システムが廻らない。

・ ドイツ
一回、二回の間伐コストを材価がカバーできない。急傾斜面の地形のため大型機械が使えず、州有林、団体有林、すべて赤字で、林業経営者の減少、若年森林労働者大幅減少をまねいている。

・ スイス
木材の販売代金が伐採コストをカバーできない。森林放棄。成長しているが伐採できない。国産材が外材に勝てない

2. カラマツ林業・林産業の歩み

A. カラマツ林業の概歴
はじめは山びき苗を植林していたが(1830年頃、佐久)、養苗技術(明治少し前、松本、南佐久)の発達で大規模造林がはじまった。最初の造林は小諸藩(1852年)で、この林は現存する。林業総合センターで幾本か切ったが、非常に赤みの強い見事な材である。
川上村にはもっと古く、300年くらいの人工林があるのではとのことなので、調べてみたい。1880年、高遠藩の中村彌六(やろく)がドイツミュンヘン大学に遊学中、日本カラマツの苗木をドイツに植林し、その立派な成長ぶりにドイツ林業関係者が注目、1956年に来日して川上村梓山からはじまって、八ヶ岳、乗鞍、上高地等、仙台から静岡に至るいろいろな所から種を集めてドイツで苗木をおこし、国の方々に植えて試験をし、40年後、成果集としてまとめている。
日本のカラマツ林は先の大戦でほとんど切られてしまったから、今あるものは大部分戦後に植えられたもので、北海道に46万ha、長野県24万ha、岩手県が12万ha、これが御三家である。

B. 日本カラマツの天然分布
北は宮城県、西は白山ということになっているが、宮城県馬の神山(まのかみやま)に残るたった12本のカラマツは、日本カラマツとは違うらしいし、白山のものは、有るという文献があるだけで、現物は存在しない。現在、一番が南アルプス、次いで富士山だが、良い林ではない。次が八ヶ岳、そして北アルプスである。北緯36度から38度、標高1300mから2000mの間にカラマツ天然林は分布している。
全体で7000町歩。

C. 世界における日本カラマツの地位
日本カラマツは世界で見事な成長をとげている。
韓国  50万ha(明治29年から)
ドイツ    4千ha(明治13年から)
イギリス 2万3千ha
デンマーク  4千ha
評価としては、 
・育苗が容易(播種発生が良い)
・苗木の根付きが良い
・土壌養分の要求度が低い(寒さに強く痩せ地で育つので、
 手入れ費が比較的少なくてすむ)
・初期成長が早いから、混交林の中でも優勢に育つ
・良好な樹幹形(幹がまっすぐ)と大径材生産の可能性が高い
・病害虫に強い(枯れるに至る病気が少ない)
・ 秋の黄葉がきれい

3. カラマツ材利用の現状と将来
A. カラマツ材の性質
@ 未成熟材部(髄から約20年輪まで)のねじれ、狂いが大きいこと
A 常温でヤニが滲出しやすいこと
B 春目と秋目の硬さの違いにより、材の角がササクレしやすいこと
C 釘打ちの際に材が割れやすいこと
D 春材と秋材部(年輪部分)との硬さに大きな差
E 水、薬品等の浸透、注入がきわめて難しい
F 国産針葉樹材中で強度性能大
G 木理や材色の特異な美しさ
ヤニは他の樹木(コウヤマキ、ネズコ等はすごい)に比べて少ないが、常温で  出るのが特色である。ヤニは芳香成分と粉成分とに分けられ、粉の成分をとって  しまうと材が弱くなり、あの独特の赤みも失われてしまう。

B. カラマツ材利用の現状
材を蒸気で蒸すことで、ヤニを封じ込め、ねじれも直し乾燥もさせるという(蒸して柔らかくなった材を押さえることで曲がりも直す)素晴らしい技術の開発によって、柱、土台、板等、今までの使い方をより発展させ、多方面の建築材料から家具などにも使用が可能になった。これからの研究次第で、もっと多くの可能性を引き出せると思う。

C. カラマツ林業、林産業のゆくえ
現在世界のすべての森林国が非常に苦しい状況におかれているが、これはカナダからの安い材が世界をまわっているからで、あれは天然林の略奪林業である。
木を切ったら植えて手入れをしてという持続可能な森林経営の行われている森林から切り出された木材ならば、たとえ値段が高くとも積極的に使おう。そうでなければ森林がおかしくなってしまう。そして、それは地球全体の破壊につながる。
適切に管理された森林を認定し、そこから出された材に認証ラベルをつけ、このラベルは材の最終到達場所である消費者の手元までついてまわるという「森林認証」が日本でも始まっている。安いからと言って世界の木材を買いあさることは止めなければならない。
又、せっかくの適地で、今カラマツがダメだからと言ってカラマツ植林のサイクルを廻さないようなことは、もうそろそろ止めようじゃないか(切って、植えて、手入れをする、このサイクルが周り出せば、山仕事のサイクルも回り出す)。川上村に森林認証(Forest Stewardship Council:森林管理協議会)の受けられるようなカラマツ林を作っていってもらいたい。そして、優れた材であるカラマツを、特長を生かした方法でおおいに使っていってもらうように宣伝しようじゃないか。新しい技術でできるだけコストを下げる努力をしようじゃないか。地域の周景を考えてできるだけカラマツを植えようじゃないか。 川上村のカラマツの将来は明るいと思う。かならず必要とされる時が来るからそれまでに、今のうちに我々は態勢を整えておかなければならない。
                                         
 1999年12月5日
 川上村文化センターハイビジョンシアターにて